ギャンブルの負け額は、記憶だけで追うと小さくなります。
これは、悪い人だからではありません。途中で勝った時間、惜しかった場面、無料でもらったように見える特典、最後に残った現金。そういうものが混ざると、頭の中の数字はずれます。
「たぶんこれくらい」は、だいたい甘くなります。だから記録が必要です。
記録は反省文ではありません。自分を責めるためでもありません。賭け事が生活にどのくらい入り込んでいるかを、気分ではなく数字で見るための道具です。
消費者庁のギャンブル等依存症でお困りの皆様へでは、ギャンブル等依存症が健康、経済、家庭、社会生活に影響することがあると説明されています。負け額の記録は、その影響が大きくなる前に気づくための、かなり地味ですが大事な作業です。
何を記録するか
最低限、記録するのは「いくら入れて、いくら戻ったか」です。
ただ、それだけでは見落としが出ます。途中の追加、手数料、交通費、食事、飲み物、チップ、駐車場代、アプリの入金、別サイトへの移動。賭け事の周りで使ったお金も、月で見ると無視できません。
| 記録する項目 | なぜ必要か |
|---|---|
| 日付 | 回数と間隔を見るため |
| 場所・サイト・競技 | どこで負けやすいかを見るため |
| 最初に使った金額 | セッションの出発点を残すため |
| 途中で追加した金額 | 追い金を見逃さないため |
| 終了時に残った金額 | 実際の損益を出すため |
| 手数料・交通費など | 本当の負担を見えるようにするため |
| 滞在時間・プレイ時間 | お金だけでなく時間の使い方を見るため |
| 気分やきっかけ | ストレス、飲酒、給料日などのパターンを見るため |
きれいな表を作る必要はありません。大事なのは、同じ形で続けることです。
「負け額」はこう計算する
一番わかりやすい計算はこれです。
入れたお金 − 戻ったお金 = 負け額
| 例 | 金額 |
|---|---|
| 最初に用意した現金 | 12,000円 |
| 途中でATMから追加 | 8,000円 |
| 帰る時に残った現金 | 5,000円 |
| その日の負け額 | 15,000円 |
この例で、「最初は12,000円だけのつもりだった」と考えると、追加の8,000円が薄くなります。でも生活から出ていったお金は、合計2万円です。そこから戻った5,000円を引いて、負けは1万5,000円です。
勝った日も同じように記録します。
| 例 | 金額 |
|---|---|
| 最初に用意した現金 | 10,000円 |
| 途中追加 | 0円 |
| 帰る時に残った現金 | 16,000円 |
| その日の結果 | +6,000円 |
勝った日を書かないと、あとで「勝ったこともある」という記憶だけが強く残ります。負けた日も勝った日も、同じ表に入れてください。
手数料と周辺費用も見る
賭けた金額だけを見ていると、本当の負担を少なく見ます。
| 周辺費用 | 見落としやすい理由 |
|---|---|
| ATM手数料 | 1回は小さいが回数で増える |
| 交通費・駐車場 | 遊びの費用として忘れやすい |
| 食事・飲み物 | ついでに使っただけと思いやすい |
| アプリ入金手数料 | 残高画面だけでは見えにくい |
| 借入の利息 | 負けた日ではなく後日に来る |
| 有料予想、情報商材 | 賭け金とは別に消える |
たとえば月の負けが4万円でも、周辺費用が1万円あれば、本当の負担は5万円です。借金やカード払いが絡むと、さらにあとから利息や返済の形で出てきます。
月ごとの一覧で見る
一回ごとの記録は、その日の反省には役立ちます。ただ、本当に見たいのは月の合計です。
| 月 | 回数 | 勝ち日 | 負け日 | 合計損益 | 周辺費用 | 合計時間 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 4月 | 5回 | 1回 | 4回 | -32,000円 | 6,500円 | 18時間 |
| 5月 | 7回 | 2回 | 5回 | -54,000円 | 8,200円 | 26時間 |
この表を見ると、「一回の負けはたいしたことない」とは言いにくくなります。回数と時間も、生活への影響を教えてくれます。
厚生労働省の依存症対策ページでは、保健所や精神保健福祉センターなど、相談機関について案内されています。月の記録を持って相談すると、「最近ひどい気がします」よりも、状況を伝えやすくなります。
追い金を別の欄にする
追い金は、負け額の中でも特に見ておきたい部分です。
最初の予算を失ったあとに追加するお金は、たいてい冷静な予算ではありません。取り返し、焦り、悔しさ、もう少しで当たりそうという感覚が混じっています。
| 記録欄 | 例 |
|---|---|
| 最初の予算 | 10,000円 |
| 追加1回目 | 5,000円 |
| 追加2回目 | 10,000円 |
| 追加した理由 | 負けを戻したかった |
| 追加前の気分 | イライラ、焦り |
| 結果 | 合計22,000円負け |
追い金が増えているなら、負け額の上限だけでなく、アクセス制限や利用停止も考える段階です。JRAの電話・インターネット投票の利用停止についてでは、本人申請による利用停止制度が案内されています。公営競技に不安がある場合は、自分が使っているサービスでどの制度があるか確認してください。
記録を改ざんしない工夫
負けた直後は、数字を小さく書きたくなります。見たくないからです。
そのため、記録はできるだけ早く、証拠に近い形で残します。
| 工夫 | 役立つ理由 |
|---|---|
| 帰る前にメモする | 家に着くまでに記憶が丸くなるのを防ぐ |
| ATM明細を取っておく | 追加資金をごまかしにくい |
| 入金履歴をスクリーンショットする | オンラインの追加を見逃さない |
| 銀行アプリで月末確認する | 現金の記憶と口座の動きを照合できる |
| 信頼できる人に合計だけ見せる | 秘密にしにくくなる |
誰かに全部を見せる必要はありません。ただ、隠しているから続けられる負けもあります。記録は、その隠れ場所を少し狭くします。
記録が示す危険サイン
記録をつけたら、数字だけでなく変化を見ます。
| 記録に出るサイン | 注意したいこと |
|---|---|
| 回数が増えている | 習慣化している可能性 |
| 追加資金が増えている | 追いかける癖が強くなっている |
| 負けた翌日にまた賭けている | 取り返しの圧力が残っている |
| 深夜や仕事前が増えている | 疲れた判断で賭けている |
| 生活費から出している | 娯楽の範囲を超えている |
| 記録したくない日がある | 隠したい状態が生まれている |
ギャンブル依存症予防回復支援センターのサポートコールは、24時間・365日、無料で相談できます。記録を見て自分でも怖いと思うなら、その感覚は軽く見ないでください。
記録した後に決めること
記録は、書くだけではあまり意味がありません。次の行動につなげます。
| 数字が示したこと | 次の行動 |
|---|---|
| 月の上限を超えた | 今月はもう賭けない |
| 追い金があった | 次回は追加資金の道を消す |
| 深夜に負けが多い | 夜はアプリを使わない、店に行かない |
| 勝った日ほど長く遊ぶ | 勝ちの終了条件を決める |
| 記録を隠した | 相談先か信頼できる人に話す |
| 借金が入った | ギャンブル相談と借金相談を分けて進める |
記録は、過去を責めるためではなく、次の被害を減らすために使います。
まず一週間だけでもいい
完璧な家計簿を作ろうとすると、続きません。
最初は一週間だけで十分です。紙でも、スマホのメモでも、表計算でもかまいません。
書くのはこれだけです。
| 日付 | 使った場所 | 入れたお金 | 戻ったお金 | 結果 | 時間 | 気分 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 例 | 競馬・アプリ | 10,000円 | 3,000円 | -7,000円 | 2時間 | 取り返したかった |
一週間分を書くだけでも、思っていたより多いか、少ないか、時間が長いか、同じ理由で賭けているかが見えてきます。
負け額を記録することは、ギャンブルを上手に続けるための技術ではありません。
現実の数字を見て、必要なら早めに距離を置くための作業です。見たくない数字ほど、見えないままにしない方がいいです。