「今日は気をつける」だけでは、上限を決めたことになりません。
気をつけるつもりで行ったのに、負けたあとで追加する。勝っているうちに気が大きくなる。あと少しで取り戻せそうな気がする。そういう場面で効かないルールは、ルールではなく、その日の気分です。
上限は、遊ぶ前の冷静な自分が、遊んでいる最中の熱くなった自分に渡すメモのようなものです。勝ち負けを変えるためではありません。生活費、時間、家族との約束、明日の仕事まで賭け事に巻き込まないための線です。
消費者庁のギャンブル等依存症でお困りの皆様へでは、本人だけでなく家族の生活に支障が出ること、借金や相談先の問題にも触れています。上限は、負けを小さく見せるためではなく、そういう広がりを早めに止めるために使います。
上限は「数字」と「行動」で決める
良い上限には、だいたい二つの部分があります。
ひとつは数字です。いくらまで、何時まで、何回まで。もうひとつは行動です。その数字に達したら何をするのか。帰るのか、アプリを閉じるのか、ATMに行かないのか、誰かに連絡するのか。
| 弱い決め方 | 使える決め方 |
|---|---|
| 使いすぎない | 今日の損失上限は1万円。超えたら終了。 |
| 長くやらない | 90分で席を立つ。延長しない。 |
| 今月は控える | 今月は2回まで。3回目は行かない。 |
| 熱くなったらやめる | 追加で入金したくなったら、その時点で終了。 |
| 取り返しに行かない | 負けた日の夜と翌日は賭けない。 |
その場で相談できる上限は、たいてい負けます。遊びながら「まあ、今日だけ」と変えられるなら、最初から決めていないのと同じです。
五つの上限を分けて考える
お金の上限だけを決める人は多いです。それは大事ですが、それだけでは足りません。
| 上限の種類 | 守るもの | 例 |
|---|---|---|
| 損失上限 | 一日に失ってよい金額 | 今日はマイナス1万円で終了。 |
| 時間上限 | 滞在時間、プレイ時間 | 20時30分に終える。 |
| 回数上限 | 月・週に遊ぶ頻度 | 週1回まで。給料日前は行かない。 |
| 資金上限 | どこからお金を出すか | 現金のみ。カード、借入、後払いは使わない。 |
| 終了条件 | 何が起きたら即終了か | 追加資金を考えたら帰る。嘘をつきたくなったら終了。 |
小さな金額でも毎日続けば大きくなります。短い時間でも、負けたあとに何度も戻れば習慣になります。だから、お金・時間・回数・資金源・終了条件を別々に置いておく方が安全です。
生活費は最初から外す
上限を決める時に一番やってはいけないのは、財布や口座の残高から考えることです。
口座に残っているお金は、自由に使えるお金とは限りません。家賃、ローン、食費、子どもの費用、交通費、保険、税金、医療費、返済、急な出費。名前がまだ付いていないだけで、もう行き先が決まっているお金があります。
| 賭け事に入れてはいけないお金 | 理由 |
|---|---|
| 家賃・住宅ローン | 負けたあとで取り返しがつきにくい。 |
| 食費・光熱費 | 家族や生活にすぐ影響する。 |
| 借金返済のお金 | 返済遅れが次の借金を呼びやすい。 |
| クレジットカード枠 | 現金の負けを将来の負債に変える。 |
| 貯金・緊急資金 | 本当に必要な時に残らない。 |
上限は「余ったら使っていい金額」ではありません。「なくなっても、明日の生活が壊れない金額」です。
上限を守る形にする
上限は頭の中に置くだけでは弱いです。守れる形に変えておきます。
| 方法 | 効果 |
|---|---|
| 現金だけを持って行く | 追加資金を取りにくくする。 |
| ATMカードを置いて行く | 負けた後の衝動を止める。 |
| クレジットカードを使わない | 負けを借金に変えない。 |
| 終了時間に予定を入れる | 帰る理由を作る。 |
| 遊ぶ前に誰かへ一言伝える | 秘密の時間を作りにくくする。 |
| アプリやサイトの利用制限を設定する | 夜中や衝動時のアクセスを減らす。 |
ギャンブル依存症予防回復支援センターのアクセス制限制度の解説では、公営競技での入場制限、電話・インターネット投票の利用停止、限度額設定などが紹介されています。自分の意志だけで止めにくい場合は、こうした外側の仕組みも確認してください。
「勝った時」の上限も決める
負けた時の話ばかりすると、勝っている日の危険を見落とします。
勝つと、人は慎重になるとは限りません。むしろ、賭け金を上げる、予定時間を延ばす、特典を取りに行く、普段しないゲームに手を出すことがあります。最後には、勝っていたはずの日が普通の負け日になることもあります。
| 勝っている時のルール | 例 |
|---|---|
| 元金を先にしまう | 予算が倍になったら、最初の金額は財布の別の場所へ入れる。 |
| 利益の一部で終了する | 予定より一定以上勝ったら、その日は終わる。 |
| 賭け金を上げない | 勝っても最初の単位を変えない。 |
| 特典で延長しない | ポイントや食事券のために時間を伸ばさない。 |
勝ちを確定する方法は、プレイを終えることです。それ以外はまだ確定していません。
上限を破ったら、上限を強くする
一度破ったからといって、自分を責め続ける必要はありません。ただし、同じ上限をそのまま使い続けるのは危険です。
| 起きたこと | 次に変えること |
|---|---|
| ATMに行った | 次回はカードを持たない。 |
| 予定時間を超えた | 終了後に別の予定を入れる。 |
| アプリで追加入金した | 入金上限、利用停止、ブロックを検討する。 |
| 家族に金額を少なく言った | 記録を残し、相談先を使う。 |
| 負けた翌日に戻った | 負けた後の休止日を決める。 |
同じ失敗が二度、三度と続くなら、「意志が弱い」のではなく、仕組みが弱いのかもしれません。
上限が守れない時は相談のタイミング
上限を決めても毎回破る。負けを取り戻すために戻る。借りてまで続ける。隠し事が増える。こうした状態なら、次の上限を工夫するだけでは足りないことがあります。
厚生労働省の依存症に関する案内では、精神保健福祉センターや保健所など、地域の相談先に触れています。ギャンブル依存症予防回復支援センターのサポートコールも、日本語で相談できる窓口の一つです。
上限は、我慢比べではありません。
守れないなら、もっと強い仕組みを使っていい。人に頼っていい。少なくとも、次の賭けをする前に一度止まる価値はあります。